忍者ブログ

Provisional

Janek Chenowski's Provisional Blog

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

コメント

現在、新しいコメントを受け付けない設定になっています。

BLACKHAWK!!!11!!!1!!!

 性懲りも無く刃物の話になる。
 別に僕はナイフのオーソリティーではないし――今日、自分で台所の包丁を砥げる人間がどれだけ居るかは神のみぞ知るところだが――もし自称する事が許されるならば「ひとりぼっちのあいつ」だ。ノーウェア・マン。物理学者で古典学者で植物学者、風刺詩家でピアニストで歯医者、ヘボ詩人だ。いや、嘘だから信じないで欲しい。そのどれでもない。
 だが、数ある銃器に通暁したミリオタの中でも、加えて刃物に多少なりとも知識のある数少ない一人ではあると自負している。何しろ先の大戦で敗北を喫してからというもの、軍事の香りがするものには極端に冷たいこの日本という国に於いて、唯一「実物」を手にする事が出来るシロモノである。完動品の自動小銃を所持する事は叶わぬこの国だが、実際に物を切る事が出来る軍用ナイフを持つ事は許されている――今のところ。一昔前はフェアバーン・サイクス等のダガーも所持出来たのだが、ある事件を切っ掛けに単純所持でさえも法律で罰せられるようになってしまった。
 法律に文句を言っても仕方がない。法よりも我が優先する治世を望むならば、イランかどこかに移住すれば良いだけの話だ。今から書くナイフについても、これは全く日本国内では合法のブツで、まったく合法的に手に入れた事を強調しておきたい。
 今回手に入れたナイフは、BLACKHAWK社の「Mark I Type E」というモデルだ。本当なら「BLACKHAWK!」と感嘆符まで含めて表記するのが正しいのかもしれないが、僕たちミリオタが口にする時はだいたい「ブラックホーク」か、ブラックホーク・インダストリーの略称である「BHI」を用いる。軍用グッズの中でも、とりわけ特殊部隊御用達の品を製造する会社である。
 特殊部隊御用達、なんとも心躍るフレーズではある。だが、その製品のほとんどはアジアで製造されているし、そのクオリティについては良い噂も、悪い噂も聞かない。なんというか、個人的なイメージで言えば「パッとしないメーカー」だ。そのくせ製品の値段は若干割高に感じられる。それに、どこかで見たデザインの製品も数多く存在する。
 「Mark I Type E」も、かつては別のメーカーが製造していたデザインをそのまま踏襲した製品である。BLACKHAWK社とは別にMaster of Defenceというステキなナイフメーカーがあって、そこで作られた「CQD Mark I」というモデルがこの「Mark I Type E」の原型となっている。ただし、MoD社が製造したものが154CM鋼のブレードにエアクラフトアルミ製ハンドルを備えていたのに対して、BLACKHAWK社で製造されたモデルはAUS-8のブレードに強化樹脂製ハンドルと、若干のコストダウンの跡が見られる。おまけに、あまり使い道の思いつかないシートベルトカッターとグラスブレーカーが追加された。
 本当なら、MoDの「CQD Mark I」が欲しかったのだけれど、高価な上に現在ではプレミアが付いていたので、結局は後継モデルであるBLACKHAWK製の廉価版を買う以外に無かったのである。だが、このシートベルトカッターとグラスブレーカーについては、あまり好きになれない。どちらもニッチな需要しかない機能だ。クルマに乗っている時に運転を誤って河に飛び込んでしまい、そのまま水死しかねない所を、体を拘束するシートベルトを切り裂き窓ガラスを割って逃げ延びる、というシチュエーションしか思い浮かばないが、こんなナイフを常時クルマの中に備えておく事はないだろう。
 「常に持ち歩いていれば、別にクルマの中に常備しておかなくてもいいのでは?」と思うかもしれない。確かにそうだけれど、毎日ポケットに入れておくには少々重すぎるナイフだ。正確には測っていないけれど、多分200グラムくらいあると思う。おまけにシートベルトカッターがいつかポケットを切り裂くのではないかという不安から、気安く仕舞う事が出来ないでいる。まあ、そこそこ奥まったところにブレードがあるデザインなので、気にすることはないだろうけど。
 刃はプレーンタイプと波刃の二つから選べるが、僕が選んだのは波刃のタイプだ。AUS-8鋼は比較的リーズナブルな鋼材として知られているが、この種のナイフに使うにも十分な性能を備えていると思う。154CMとかSV30などという高級でハイパフォーマンスな鋼材を使ったナイフも素敵だけれど、そこまで体感できる程の差があるわけでもない。それに、安価な鋼材の方が砥ぎやすい場合もある。刃にはサムスタッドが付属していて、これをつまんで引っ張る事で刃が開くようになっているが、フリッパーは存在しないので、閉じた状態からヒルトを「押し出す」ような開刃は不可能になっている。まぁ、サムスタッドの設計が優れているから、特に不便を感じさせない。
 箱出しの刃付けは非常に鋭いが、これは使っているうちに自分なりのシャープさに変貌するので気にしないでおこう。ナイフの切れ味は最初の刃付けが鋭いかではなく、使い込んだあとに自分で砥ぎ直した時に、思い通りの刃が付くかどうかで判断されるべきだと思う。波刃はきちんとロープを切断できるようなエッジが立っているし、スピアポイントの先端はナイフのグリップ軸と一致しているから、操作性は決して悪くない。
 刃のロック方式はちょっと変わっていて、開かれた刃を閉じる為にはグリップ側面に付いたボタンを押し込みながら畳む必要がある。おそらくクロスボルトのような構造なのだと思うが、さらにそのボルトが不用意に押し込まれないように固定するスライドレバーまで存在する。これを作動させれば、まるでフィクスドブレードのナイフのように強固な固定が可能になる――というのがコンセプトらしい。あまり過信しない方がいいかもしれない。何といっても、結局のところフォールディングナイフは構造的に強度が弱いのは否めないのだから。
 グリップパネルは樹脂製で、その下にはステンレス製のライナーが仕込まれている。グリップ側面には親指を引っ掛ける為のスタッドが設けられていて、ナイフの刃を水平に寝かせた状態でもしっかりと握れるようにデザインされている。――でも何のために? この鋭利なナイフを横に構えて、刃が相手の肋骨の間を通り抜け、心臓目がけて一直線に突き刺せるようになってるとでも言うのだろうか。一部のサイコパスには歓迎される機能かもしれないけれど、僕にとってはナイフの全幅を徒に増加させるだけの悪趣味極まりない仕様だ。これが無ければあと8mmは薄く設計できたろうに。
 BLACKHAWK社は何としてもこのナイフをマルチユーティリティかつ戦闘用に仕上げたかったのだろうが、僕には色々な機能を盛り込み過ぎて目的がどこかへスッ飛んでしまったようにしか見えない。グラスブレーカーは刃を閉じた状態では常に露出していて、触ると尖っていて痛いし、シートベルトカッターはいつか自分のストラップを切り裂くのではないかと不安になる。刃は比較的短い――10cmくらいしかない――から、大きな大根を切る事は出来ない。これで暴漢と戦うなんてもってのほかだ。きっと貴方がこのナイフを逆手に握ってアイスピックのように振り下ろす前に、シートベルトカッターがどこかに引っかかる。
 MoD社が製造していた頃には、グラスブレーカーやシートベルトカッターなどの機能はフィーチャーされていなかった。鋼材や品質などが優れていたという事もあるが、やはりBLACKHAWK社以前に製造されたMark Iが評価されているのは、無駄な機能を削ぎ落して極限まで「フォールディングナイフ」として特化した、そのデザインにあったのだろう。だが、こんにち手に入るMark IはBLACKHAWK社が製造した、テレビの通販番組が商品のオマケに付けるような不必要で誰も求めていない機能が盛りだくさんの折り畳みナイフだ。ついでに言えば、製造はアメリカ合衆国内ではなく台湾で行われているらしい。
 「Mark I Type E」はナイフとしての能力しか求められていなかったのに、車が水没した時に役立つかもしれない機能まで付いてきてしまった、ある意味では不幸なナイフかもしれない。「特殊部隊の装備を製造するメーカーが作ったナイフ」というレッテルに惹かれて手にする分には面白いナイフかもしれないが、じきに「待てよ……特殊部隊にどうしてグラスブレーカーが必要なんだ?」と訝る瞬間が来る。今これを書いてる僕のように。
 一応付け加えておくと、「Mark I Type E」はナイフとして最低限の基準はクリアしていると思う。値段の割には高品質と言っても良い。だが、やはりこれを手にしたいと願うのは、「特殊部隊御用達メーカーが作ったナイフ」という浪漫に依る所が大きいだろう。世界各地の紛争を戦う男たちが手にする仕事の道具に触れて――日本では銃器を手に入れる事は叶わないが――その心を感じたいという人々にとっては、このシートベルトカッター(グラスブレーカー?)は非常に魅力的なアイテムとして映るに違いない。
 もしもコレクションとして価値を見出せるならば、「Mark I Type E」はその素質を充分に持っている。
PR

コメント

お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

プロフィール

HN:
Janek Chenowski
性別:
非公開

カテゴリー

P R