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Janek Chenowski's Provisional Blog

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日本で使う価値が見い出せる、おそらく唯一のコンシールド・キャリー・バッグ

 タクレットというアイテムがある。
 Googleで検索すればすぐに見つかると思うけど、「一見何の変哲もないウェストポーチだけど、拳銃を隠し持つ事が出来る」という若干アブない鞄の事だ。元々はアメリカという発展途上国に於いて事件に巻き込まれたり、ショッピングモールで買い物している最中に突如ゾンビ・パニックが発生した時にサッと拳銃を抜き放ち、暴漢やジョージ・ロメロの息子たちを射殺する為に作られたそうだが、なぜかそうした危険とはほぼ無縁な日本国内でも手に入れる事が出来る――無法な関税とマージンを加えた価格で。だが何の為に? 僕らの住む国では、歩行者天国にトラックで突っ込んで通行人を切り刻むようなサイコパスなんて存在しないし、だいいち拳銃を所持する事だって難しいのに。
 「とんでもない!」とタクレットユーザーは反論する。「お出かけの際にはとっても便利なウェストポーチなんだ! EDCバッグとして最適だよ!」
 だが、EDCバッグというにはタクレットは少しばかり剣呑な代物だ。パッと見た限りではただのウェストポーチなのだけれど、知っている人間にしてみれば「フーム、きっと彼はあの中にスィグ・サワーのペストルを隠し持ってるぞ」と警戒心を抱かせるに決まっている。もしも警官が訝って「身分証を見せて下さい」と尋ねてきて、君の身分証がタクレットの中に入っていたら、その時が君の最期だ。きっとIDケースを取り出そうとフラップを開けた君を、拳銃を取り出すのだと勘違いした警官によって射殺されるだろう。冗談ではなくて、海外のフォーラムでは現役警官が「俺が勤務の時に、タクレットを持った見るからにナードなにいちゃんを見かけたら、迷わず職質すると思う」と書き込むようなバッグである。
 EDCバッグなら他にも選択肢はある。だが、世の中には「拳銃を隠し持てるバッグが欲しい」というニーズが一定数存在するのは確かなようだ。コーデュラナイロンやプラスチックバックルで出来たモデルだけでなく、革と真鍮のハンドバッグを模したいわゆる「コンシールド・キャリー・カバート・バッグ」まで存在する。市場は案外広いのかもしれないが、こうしたバッグには共通の欠点がある。小さいのだ。ハンドバッグ程度のサイズしかない。携帯電話や財布、パスケースを入れる程度の用事なら事足りるだろうが、役所に複写式のA4書類を提出しなければならない場合など、四つ折りにして畳まなければ仕舞えないだろう。そして書類の二枚目以降は真っ青に汚れ、窓口の役人は「書き直して下さい」と君に告げる。怒り狂った君は、秘密のポケットから拳銃を抜き出して役人を射殺する。
 Condor Outdoorの作る『Solo Sling Bag』はそうした悲劇から人々を救うバッグかもしれない。左右の肩を選ばないこのスリングバッグは、二気室のコンパートメントと豊富なオーガナイザーポケット、そして周囲に「僕はミリタリーオタクです」と宣伝する為のPALSテープとパイルアンドフックが備わっている。メインコンパートメントはA4サイズの書類なら余裕で収まるから、折れ曲がって汚れた書類に難色を示す役所の窓口のオッサンを射殺する事もないだろう。だが、どうしても横柄な役人に銃弾を撃ち込みたいと願うなら、このバッグに拳銃を忍ばせる事も不可能ではない。背中のパッドとメインコンパートメントの間にちょっとしたポケットがあり、中は9mmの拳銃くらいなら収まるスペースがある。中はパイルアンドフックが縫い付けられているから、ここにホルスターを貼り付ければ、大荷物も運べるコンシールド・キャリー・バッグの完成だ。ただ、このホルスターは別売となっているので、そうした使い方はあくまで非公式のようだ。Condor Outdoorも大っぴらに「ここに拳銃が隠せますよ!」とは言えなかったらしい。
 実際に使ってみると、この手のスリングバッグとしては優しい使い心地である事が分かる。MAGFORCEのMonsoonなどはショルダーパッドがデカすぎて、どれだけベルトを締めても平均的な日本人の体型だと余ってしまったのが、Solo Sling Bagはしっかりと身体にフィットするまで締め付ける事が出来る。左右兼用のデザインも良い感じだ。ショルダーバッグなどについて「ストラップは利き手側の肩に掛けるのが正しい」「いや、逆側が正しい」なんて議論をせずに済む。疲れたら左右を入れ替えればいいのだ。幸いな事に、Solo Sling Bagはサイドリリースバックルを二か所付け替えるだけで左右をチェンジできる。
 勿論欠点もある。まず、比較的容量の大きいスリングバッグなのに、サイドを絞る為のコンプレッションベルトが付いていない。中身を目一杯詰めれば見た目には美しいかもしれないが、少量の荷物しか入れない場合は、ややだらりとした印象を与える外見になる。また、メインコンパートメントには万が一浸水した時の為にドレンホールが備わっているものの、何故かサブコンパートメントには付いていない。それに縫製の都合だろうと思うが、サイドに配されたPALSテープの一部は規定の1.5インチの幅を確保できていない部分がある。米Amazonで63ドルという価格は魅力だろう――タクレットと比較すれば1/3の値段だ。だが、Condor Outdoorというメーカーが不信感を与えているのも確かだろう。ナイロンや縫製の品質は悪くないが、良くも無い。それに、このメーカーが作るギアの中には、時折とんでもない不良品が混じっているという噂もある。
 結局、このSolo Sling Bagには「Condor Outdoorなんぞ所詮なんちゃってタクティコゥメイカーよ……やはりワシはタフプロダクツのタクレットを買うね」という人間を納得させるだけの要素がない――役人を撃ち殺さなくて済むという利点以外には。だが、日本で18,000円も払ってタクレットを買おうと考えていて、かつ大判の書類や荷物を運びたいと考えているのなら、まだ他にも選択肢がある。5.11のSelect Carry Bagだ。拳銃どころか、標準サイズのMP5をコンディション1で運べるというオマケ付きで、これもおそらくタクレットよりも安い値段で手に入る。ただ、どちらかといえば「銃を隠し持つ」事を第一に設計されているので、日常的な使い易さなどは若干犠牲になっているものと思う。
 銃器を忍ばせたり、ゾンビクライシスを生き延びる為のEDCバッグは数多い。だが日常生活でも気軽に使えるという意味に於いて、Solo Sling Bagは考慮に値するバッグだろう。
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