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Janek Chenowski's Provisional Blog

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ラブレス、見てくれ。これが最近のナイフだよ。

 先日書いた『タフクロス』に続いて刃物の話になるけれど、CRKTの「M16」というナイフが我が家にやってきた。
 CRKTとは「Columbia River Knife & Tool」の略だとか。僕はてっきり「Colombia」だと最近まで思っていて、どうせ南アメリカの共産主義に毒されたお気楽なラテン系農民が作った安物のナイフだろうと思っていた。調べたところ、「コロンビア川」は北米大陸のカナダとアメリカの境あたりを流れる川という事で、CRKTもアメリカのメーカーらしい。
 アメリカ合衆国の折り畳みナイフ。だが、我が家に届いた小さなダンボール箱には「中国製」と誇らしげに印刷されていた。以前は台湾製などの若干品質に勝る生産ロットが存在したらしいが、最近は中国製モデルが主力らしい。
 今回届いたモデルは「M16-01Z」という名称らしい。M16シリーズにはいくつかバリエーションがあるようで、ハンドルの材質からサイズ、色からブレード形状に至るまでユーザーの好みによって広い選択肢が設けられている。タントーブレードまで存在するらしいけれど、個人的にあの形は好きじゃないので普通のスピアポイントモデルを選んだ。本当ならスピアポイントかつハーフセレーテッドモデルがあったら良かったのだが、生憎と国内では見かけない。
 まず、第一印象としては非常に軽い。公称で65グラム程という事だけれど、折り畳みナイフとしては比較的軽い部類に入る。個体差はあれど、オピネルの8番がだいたい45グラムくらいだから、全金属製ライナーの入ったナイフとしては悪くない。ゼロ・トレランスの0200STをデスクナイフ代わりに使っているけれど、あれは218グラムもある化け物だ。折り畳みナイフの風上にも置けない。以前にこのブログで「EDC」の話をしたが、もしも毎日持ち歩くと仮定した場合、65グラムと218グラムの差は大きい。耐久性は言うまでもなくゼロ・トレランス製品の方が上だろうが、常日頃からナイフに過剰なタフネスを求める使い方を要求されるようであれば、断言しよう、貴方は非日常に住んでいる。
 ハンドルは掌にすっぽり収まるサイズで、つまり刃もその程度のサイズという事だ。ブレードにはフリッパーが着いていて、折り畳んだ状態からそこを押下げる事で素早いオープンが可能になっているのだが、ピポッドの動きが固すぎてスムーズに開けない。サムスタッドによるオープンも同様で、結局は両手を使って刃を開く事になる。個体差なのか、それとも新品でまだぎこちないだけなのか。使い込んでいくうちに馴染んで行く事を祈ろう。ちなみに、動きが渋いだけあってブレードとハンドルの間にガタつきは無い。
 ブレードは、言ってしまえば普通のブレードである。ビードブラストによる表面処理、ホローグラインド、ありがちな機械生産による加工だ。初期刃付けは若干雑だったが、僕の場合はナイフを購入したらとりあえず自分で砥ぐ事にしているので、別に気にしなかった。ちゃんとした砥石と革のベルトの裏側があれば、腕の毛が剃れるだけの切れ味を得る事が出来る。鋼材の名前は「8Cr15MoV」という聞いた事もない物で、きっとCRKTのCEOのラップトップのログインパスワードから採られた名前だろう。ブレードに鋼材を示す刻印や「Stainless」という表記はない。まあ、得体の知れない金属から出来たナイフなんて珍しくもないか。自動車のサスペンションのリーフ・スプリングから作ったナイフだって存在するんだから。
 M16シリーズには「AutoLAWKS」という安全装置が搭載されていて、これは開いた刃が何かの拍子に閉じてしまわないようにする為の機構だ。僕が子供の頃、遊び友達がふざけて肥後守を木に突き立てて、その衝撃で折り畳まれた刃と握りの間で右手の指をひどく傷付けた事があったけれど、そうした事故を防ぐための装置になっている。ブレードが開かれると同時に自動的に起き上がり、ライナーロックが解除されるのを阻害するよう動作するので、いざ刃を折り畳もうとした時にはこれを操作してやる必要がある。こいつがちょっと厄介なのだ。AutoLAWKS専用のレバーを引きつつ、ライナーロックも押下げるという複合操作の果てに、ようやくブレードが折り畳めるようになる。普段からライナーロックのフォールダーに慣れたユーザーは戸惑うだろう。だいいち、「刃が開かないようにする安全装置」ではなく「刃が折り畳まれない為の安全装置」というのは、なんとも奇妙な感じがする。万が一ライナーロックが破損して、刃が折り畳まれてしまうような無茶苦茶な作業をこのM16で行う人間は非常識か、或いはハンニバル・レクター博士の友人である可能性がある。
 ちょっと不思議な安全対策も万全で、日常の用に足るパフォーマンスは秘めているM16だが、いくつか残念なポイントもある。まず、ポケットクリップの取り付け位置が変更出来ない。右利きの人間がポケットから取り出す事しか想定していない設計だ。それに、このサイズのナイフにとって致命的な事に、ランヤードホールが存在しない。僕は右利きだし、ナイフに細引きを通して携帯しないタイプだから気にしないけれど、他のユーザーがそうだとは限らない。ナイロンコードを結び付けたビクトリノックスを愛用する知人が居るが、彼はこのM16を決して気に入らないだろう。
 M16には一見汎用性に富んでいるようで、実際には何をするにも少し足りないナイフという印象を持った。少なくとも、「無人島に放り出されるとしたら何を持って行きたいか?」というリストには決して加えたくない一本だ。危機的状況を切り抜けるポテンシャルは無い。EDCとしての最低限の機能を持ち合わせているだけだ。「レイズ」のポテトチップスの袋を開けたり、スペアリブの肉を骨から剥がすのにちょうど良いくらいだろう。それ以上の作業を任せるには不安が残る。作り手の情熱が籠ってるとも言い難い。マトモな見識を持った人間がデザインしたとは思えない、そんな機能上不可解な点が多すぎる。
 45ドルという値段は大変魅力的だが、コストパフォーマンスに優れるかどうかは疑問だ。人間は大抵、自分が支払った金額以上の働きをする道具を逸品であるとして絶賛するが、このM16は値段相応の価値しかない。良いナイフである事は間違いないのだが、それも45ドルという値段を鑑みての事だ。もしもこれが130ドルくらいだったら、僕は見向きもしなかっただろう。
 良いナイフが欲しいなら、M16以外にも選択肢はある。
 だが、今もしも貴方が45ドルしか出せないというのなら、M16は最良のモデルだろう。
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自由と平等と民主主義が錆を防いでくれる

 愛用しているレザーマンに錆が浮いた。
 一般にステンレスは錆びないと思われているが、実際のところは油断するとすぐに錆びる。一般に言われている耐蝕性については「錆び難い」というのが正確なところか。ステンレスにもいくつか種類があって、レザーマンに使用されているものは炭素含有量が若干多めらしい。炭素は酸素を非常に呼び込みやすく、これが酸化、つまり錆の原因となりやすい。その炭素も、必要によって含まれてるのだから、文句は言えない。
 錆が浮いたら落とせば良いだけの話なのだけど、レザーマンの場合はその作業がちょっと厄介なのだ。普通のナイフと違い、マルチツールと呼ばれているこの種の刃物は可動部が300,000,000か所ほど存在している上、ナイフやドライバーを収納する為の空間は非常に狭く、指を突っ込んで磨き上げるといった事が不可能なのである。おまけに、こうした箇所にメンテナンスオイル等が溜まると埃やゴミを吸着し、それが水分を呼び寄せて錆を発生させる原因にもなる。錆が発生したら、おそらく取り除く事は不可能だろう――完全分解すれば話は別だが、メーカーはもしユーザーが分解しようものなら、その後の保証を一切無効にすると言っている。爪楊枝や綿棒で気長に磨くしかない。
 ピカールとWD40や、その他魔法の道具を駆使してレザーマンから錆を除去した後、僕はこのクソくだらない作業と完全におさらばしようと心を決めた。そして刃物業界に於いて最高の性能を持つと評判の「タフクロス」と購入したのだった。
 「タフクロス」というのはある種の防錆潤滑剤を染み込ませた布の事で、水分を除去し、浸透力に優れ、ゴミや埃を寄せ付けず、極寒の環境下でも機能し、そしてなにより偉大なるアメリカ合衆国で作られた製品であると、広告には書いてある。これを取り扱うショップでは必ずと言っていいほど「その性能は米海軍特殊部隊によって使用されたことからも折紙つきである」と併記されてるけれど、「正式採用されました」と書いていない所が面白い。PXでは販売されているようだが、米軍ではあくまで私物として購入するようだ。
 某所に注文してから数日後、僕の手元に届いたのは、ジップ付きのビニール袋に入った青い布きれだった。開けてみると、物凄く芳しいのだけど、明らかに人体に有害な匂いが立ち上ってきた。アメリカ製品にありがちな事に、袋の裏面には注意書きが大量に書いてあって、その中には案の定「可燃性」「蒸気は有害です」とあった。なるほど、こんな物を僕はナイフに塗布するわけだ。
 とりあえず、僕の持っているナイフすべてに「タフクロス」を塗りこんでみた。使用感は思ったほど悪くはなく、油のようにべたべたする訳でもないし、手に付いてもそれほど不快感はない。立ち上る揮発成分の匂いは非常に不快だが、この不快な成分はみるみるうちに蒸発して、クロスで拭った直後はじっとり濡れた感じだった金属の表面が数十分後にはさらりと乾いている。触っても指紋が残らない程だ。何がどういった機序で作用しているのかさっぱり分からないが、非常に強力な保護膜が形成されている――ような気がする。
 残念なことに、防錆剤であるという性質上、すぐにその効果を実感する事は出来ない。というか、実感できないと思う。「こいつは凄いぜ! 今まで2年半で錆が浮いてきた所が、『タフクロス』を塗ったら7年経っても錆びてないぜ!」なんて長期的なレビューを書く訳にはいかない。YouTubeには海水に漬けるテストを行った映像が投稿されているが、『タフクロス』によって処理されたナイフでも若干の錆は確認できる。あくまで「錆びに対する耐性を向上させる」効果に優れている、という事のようだ。潤滑剤としての観点から評価すると、ドライタイプとしては非常に優れた性能を持っている。クロスに染み込ませた状態では可動部に直接注油する事は非常に困難だけれど、液状のものが「タフグライド」として販売されている。もしもKYジェリーの代用に使おうなどと考えなければ、べとつかずゴミも寄せ付けず、理想的なルーブと言える。
 勿論欠点もある。僕が食事に使うオピネルにも「タフクロス」を塗布したのだが、製造元のSentry Solutionsによれば、これはアメリカ食品医薬品局の認可を受けていないという。まぁ、無認可すなわち即有害という事でもないし、公式のFAQには「『タフクロス』による保護膜に毒性はない」としている。有害である揮発成分は時間と共に消え去るし、ほとんど気にせず使えるようだが、「『タフクロス』で処理された刃物で食品を切る際は、一度拭くか洗うかしてからの方が良いでしょう」と最後に記されている。万が一の訴訟対策なのか? 裁判沙汰を恐れるあまりの注意書きが多すぎて、一番知りたい危険性に関する情報が埋もれてしまっている。「蒸気は有毒です」「ご使用後は手をよく洗って下さい」「子供の手の届かない所に保管して下さい」「保護膜に毒性はありません」 うん、それで? 僕はこれからもオピネルで鶏肉を切り分けても良いのかな? 止めておいた方が良さそうだ。よしんば毒性が無くても、『タフクロス』の味がする食事なんて想像したくない。
 総合的に言って、『タフクロス』は潤滑剤としてのみお勧めできる。ただし、様々な部品の可動部に注油したいのなら、素直にスプレータイプを買うべきだろう。クロスで拭き込むだけでは、潤滑を必要とするような部位に浸透させる事は出来ない。防錆剤としての性能は未知数だ。それを検証するには膨大な時間が必要だし、この種のケミカルについては、偽薬効果のような思い込みも大きく作用するものだから。
 「アメリカ合衆国で作られ、米軍によって愛用される製品で磨き上げる」という行為に価値を見出せるのであれば、『タフクロス』はひとつの選択肢かもしれない。だがもしも貴方がアメリカのヘゲモニーに辟易する人間だったら、『バリストール』で代用する事を勧める。

映画館が遊園地になった

 僕は天邪鬼ではないが、他人と同じ事をやっていても面白くないと思うのは確からしい。
 そういうわけで、この齢になっても結婚しようとは一切考えないし、子供が欲しいとも思わず、流行りの音楽は聴かず、世間が「コレ良いよ!」と声高に喧伝するものとはかなりの割合で無縁に生きている。そう、野球も観ない。繰り返しになるけれど、天邪鬼ではない。ただオタッキーなだけだ。
 そんなわけで、先日数年ぶりに映画館に行く機会に恵まれた時も、なんだか名作らしい『風立ちぬ』ではなくて、若干キワモノ扱いされてる風でもなくもない『パシフィック・リム』を観てきた。知名度は宮崎駿監督作品には劣るだろうが、僕の知人のうちの何人かが「映画館で観るべき作品」として非常にプッシュする位だから、さぞ良い作品だろうと思ったのである。世間の流行に鈍感なヘソ曲がりでも、知人の言う事は素直に信用してしまうあたり、僕も世捨て人にはなり切れないんだなあと自分でも笑ってしまう。
 ところで、僕はいわゆるロボット物が大変苦手である。
 唯一通しで観たのは劇場版『パトレイバー』くらいのものだが、アレは監督の関係でロボット物というよりは普通のドラマだったし、『機動戦士ガンダム』シリーズに関してはインターネット上でミームと化したネタの断片以外に知る所は無いと断言していい。もしも誰かが僕に「ロボット物だと何が好きですか!?」と尋ねてきたら、こう答える事にしている。「うん、『ドラえもん』が好きだね。ネコ型ロボットとか可愛いじゃん」 そして、彼らは失望の眼差しと共に僕に背を向ける。こいつ話分かんねぇな、という微かな嘲笑を口許に浮かべて。
 そんなロボット物オンチだから、実を言うと僕は『パシフィック・リム』にさほどの期待を抱いていなかった。ここだけの話、『パシフィック・リム』の綴りさえ分からなかった程だ。
 しかし、そんな僕の不安は映画が始まって10分で払拭されてしまった。何故ならこれは「ロボット」ではなく「機械」の映画だったからである。
 「イェーガー」と呼ばれる劇中の人型決戦兵器――いや違うな。なんて呼べば良いんだ? まあいいや。イェーガーには「機械」としての魅力がたっぷり詰まっている。よく分からないサムシング合金や人工筋肉、自己修復被膜なんてケレン味溢れるギミックなどは搭載していないようで、常に「鉄」と「油」の臭気を全身から放っている。正直な話、あまりに「機械」として生々しすぎて、サイバネティックなコクピットが不釣合いに思える程だ。
 イェーガーの格納庫などの背景美術にしても、ケーブルや配管が捻じれ走り回る、錆の浮いた鉄製構造物というのが非常にイカしている。作中で主な舞台となるのは香港なので、ここに漢字をあしらったポスターやデカール、落書き等が加わるともうほとんど『ブレードランナー』の世界だ。近未来であるにも関わらず、旧世代のテクノロジーがひしめく世界観は一見奇異に映るかもしれないが、どこか懐かしさを感じさせてくれる部分もある。おそらく意図的に古臭くしている部分もあるだろう。ある場面で登場する東京の風景など、あまりに昭和のテイストが染みついていて、往時の怪獣映画を彷彿させる効果がある――舞台が近未来であるにも関わらず。きっとどこかに「コルフ月品」の看板も掲げられているだろう。
 「ストーリー」という概念はおそらくこの映画には存在しない。怪獣が居て、でっかい機械に人間が乗って、両者が戦う。それだけの映画だ。「それだけ」を最新のVFX技術やら何やらを駆使して壮大なスケールで描いたという部分に、この映画の価値は存在していると思う。その気になれば、一見薄っぺらに見えるストーリーの中にも様々な裏事情を読み取る事は可能だろう。例えば、「富裕層や権力者は内陸部に作られた強固なシェルターに隠れて特権階級の暮らしを満喫しているんだろうな」などと想像してみたり。ニール・ブロムカンプが考えそうな事だ。
 そして――ううん、困った。もう書く事がない。
 公平に言って、感動のドラマと俳優の名演技が名作を織り成すとするならば、『パシフィック・リム』は名作ではないのだろう。正直なところ、『パシフィック・リム』にはそのどちらも充分には備わっていない。おそらく、この映画で最も演技が輝いているのはイェーガーそのものだろう。或いはブルドッグか。
 思うに、『パシフィック・リム』はジェットコースターのような物だと思う。楽しいし、エキサイティングだが、その理由はと訊かれても分からない。ストーリーやドラマも存在しない。ただ日常を超えた体験が、僕らの心を強く揺さぶる。『パシフィック・リム』はアトラクションなのだ。
 ジェットコースターが遊園地に行かないと乗れないように、アトラクションとしての『パシフィック・リム』は映画館でしか観られない。多くの視聴者が「これは絶対映画館で観るべき」と口を揃えて言う理由は、おそらくここに有るのだろう。そんな風に、溶かしバターを掛けたポップコーンとたっぷりのコーラを持ち、暗い映画館で童心に帰って2時間11分を過ごすという体験にもっとも彩りを添えてくれる映画として、僕は『パシフィック・リム』こそもっとも相応しいと思う。

芹沢と呼ばないで

 相模原にある『九龍』というサバゲーフィールドへ行ってきた。
 神奈川に新しくインドアフィールドが出来るという話は7月のVショーで耳にしていたのだが、遂に8月の初めにオープンしたらしい。ちなみに、今回は初の定例会という事だった。
 参加者は30人の定員制で、事前に予約(先着順)しなければならないのは少々面倒に感じないこともなかったが、これはフィールドの規模を考えればむしろ良い案だと思う。フリー参加の定例会を行うフィールドは数多くあるけれど、昨今のサバゲー業界は競技人口がやたらと増えているようなので、フィールドのキャパシティを超えた数の参加者が押し寄せた結果、様々なトラブルに発展する事もある。これは決して冗談ではない。実際に、人が多すぎてセフティエリアに人が入り切らなくなった定例会を、僕は経験している。その上『九龍』は駐車場の収容台数が20台程度とのことで、定員制でなければ駐車スペースを巡って大変な調整が必要になるだろう。
 レギュレーションは『九龍』公式ページに記載されている。ただし、今回の定例会を通して主催側から何度か補足説明があったので、ここに簡単に挙げておこうと思う。「タッチ、ナイフアタックの禁止」「ゲーム中のマガジン貸し借りは原則禁止」「フリーズコールは認められる」「ただしフリーズコールは手が届く近距離に於いてのみ」――最後の説明は僕がやらかした為だ。僕があるゲームで3~4メートルくらいの距離で背後からフリーズコールを仕掛けたのである。思えば、「その距離なら振り向いて反撃出来たかも」と釈然としない想いを相手が抱く事を予想して然るべきだった。かといって、手を触れられそうな距離で「フリーズ!」と叫ぶのもあまり現実的ではないから、ここは相手が近距離に居よう背中を晒していようが、迷わず1発撃ち込む事をお勧めしたい。皮肉ではなくて、やはりフリーズコールはトラブルの種になりかねない。たとえレギュレーションで禁止されていなくても。
 レギュレーションは今後も追加や改訂が為されるのではないかと、僕は予想している。これから運営側のノウハウが蓄積されていけば、それまで見えなかった問題点が浮かび上がってきて、それに対応した規定がきちんと作られる筈だ。僕らが生まれたばかりの『九龍』というフィールドを、これからも楽しむ為に何が出来るだろう? 色々とスタッフに質問してみるのも良いかもしれない。「フラッシュライトの電圧に規制とかないんですか?」とか「減速アダプターの使用は可能ですか?」などなど。これは全部今日、僕が訊こうと思って完全に忘れていた事だ。もしかすると、参加者の何気ない疑問の声が、より楽しいゲームを提供するレギュレーションが生まれる端緒になるかもしれない。
 施設や設備面では、『九龍』は少なくとも僕らが必要とする物を揃えている。清潔なトイレ、喫煙所、ソファにローテーブル。自販機にはエナジードリンクが置いてあるし、簡単な菓子類も併設店舗で買える。勿論BB弾やパワーソースのガスなどといったサプライを購入する事も出来る。同じテーブルに座る参加者の同意が得られれば、灰皿を使用してソファで喫煙する事も出来るようだが、個人的には分煙にした方がいいのかもしれないと思う。僕自身も喫煙者だが、煙草を蛇蝎の如く嫌う人間がこの世に2人くらい存在している事は知っているし、なにより参加者の中には二十歳にならない人間も居るだろう。彼らの目の前で煙草を吹かすべきではない。
 実際にゲームを行うフィールドは3階までフロアがあり、そこかしこが非常に入り組んだ構造になっている。『九龍』の名の通り、かつて存在した九龍城を彷彿とさせる。壁に貼られた中国語らしい貼り紙なども雰囲気作りに一役買っている。といっても、僕は九龍城へ行ったことなど無いのだが。
 照明は非常に暗く、場合によってはその照明すら消す場合がある。フラッシュライトが非常に活躍するフィールドといえる。あまりに暗すぎて足元が危険なため、レギュレーションでダッシュが禁止される程だ。一部にはぼんやりとした照明やスポットライトが点いている場合もあるが、そうした光源は自分の影を予期しない場所に映し出したりするので、なかなか厄介だった。初めて訪れた人間ならば、3階へ上がる階段すら見つけられず、場合によってはフィールドの中で迷子になるかもしれない。ちなみに僕は迷った。
 初の定例会という事もあって、『九龍』のスタッフによるゲーム進行はややぎこちない部分もあったが、これは今後さらに洗練されていくだろう。基本的には1ゲーム毎に休憩を10分程度はさみ、陣地を入れ替えつつ進めていくのだが、人によっては試合と試合のインターバルが長すぎると思うかもしれない。しかし、4ゲームを連続で戦ってから休憩所に戻るような流れでは身体が保たないよ、という僕のような虚弱体質には、非常に心地よいペースだった。それに慌ただしく次のゲームの準備をしなくても済む。また、スタッフによる試行錯誤のうちに、僕らが予想もしないような楽しい趣向が凝らされたゲームが提案される事もあったりと、悪い事ばかりではない。スモークを炊いて煙だらけにした上でゲームを行ったり、照明やスポットライトの電子制御によって発光色や明るさを操作したりと、毎試合を新鮮な『九龍』で戦う事が出来る。それに、チームバランスの調整に際しても非常に柔軟な対応を見せた。敢えて人員を不均衡にしてみる、インドアで威力を発揮するハンドガンを主力とした参加者のバランスを揃える、果ては「『九龍』経験者が一方のチームに集中しない様にする」などといった手段によって、勝敗の偏りはほとんど無かったように感じた。



セフティエリアの様子。右奥は事務室、そのさらに右横に売店がある。


フィールドの照明はランダムに色が変化する。


 全体的に、今回参加した『九龍』初の定例会は楽しめるものだった。一部設備や内装が未完成だったのは残念だが、今度訪れた時にはより楽しくなった『九龍』を見る事が出来ると考えれば、いつかまた行きたいと思うには充分だ。神奈川県内では貴重なサバゲーフィールドだからではなく、そこが『九龍』だから行きたいと思う程には。
 しかし、もしも貴方がSNSで「インターネットバンダリアマン」などという通名で活動していて、同じSNSの仲間と交流を深める場として『九龍』を考えて居るなら、残念ながらお勧めはできない。というのも、『九龍』では事前申し込みのデータを元にした参加者の名簿を持っていて、チーム分け等の際に参加者を本名で呼ぶのである。この悲劇は受付時に参加者へナンバータグを貸与し、番号による識別を行う事で回避できる筈なので、是非ともこの点だけは改善頂きたいと思う。
 でなければ、インターネットバンダリアマン何某の本名が「芹沢」だと仲間にバレる日も、そう遠くないかもしれない。

ホームメイド・バイオケミカル・ウィーポン

 中田商店という店がある。
 軍事マニアならば一度は聞いた事があると思うが、東京にある老舗のミリタリーショップである。その豊富な品揃え、安くはないが適切とは思える値段、そして一般人にも受け入れられるだけのカジュアルさを備えた中田商店は、おそらく日本で最も名を知られた店のうちの一つなのではないかと思う。一度その店内に入れば、ありとあらゆるスペースに積まれた軍装に付着した黴や真鍮金具の緑青の匂いを、二度と忘れる事はないだろう。
 なんでこんな話を始めたのかというと、ある時Twitterで『ガールズ&パンツァー』に登場する秋山優花里という架空の少女について熱く語っているとき、「この娘の体臭は中田商店の匂いと同じなのではないか」という閃きが僕の頭の中で爆発したのである。作中でも随一のミリタリーマニアとして知られる秋山宅には多量の「コレクション」が保存されているだろうから、必然的に彼女の身体にもその香りは染み付くのだと、僕は考えた。そして自身のつまらない興味とちょっとした性欲を満足させる為に、それを再現して実際に嗅いでみようと思い至ったのである。
 ところで、我々が「中田商店の匂い」と呼ぶものは、年代物のコットン製のポーチやバッグなどを用意すれば簡単に体験する事が出来る。例えば中国製の弾帯や、古い米軍のサスペンダーなどがあれば、秋山優花里の匂いに包まれたいと思う度に御徒町まで足を延ばさなくても済む。幸い、僕の手元には人民解放軍のチェストリグが一式あったので、それに仮の同居人がしばしば誤って「エイティーフォー」と呼ぶ制汗剤を吹き掛け、多少の女の子フレグランスを足してから鼻から胸いっぱいの空気を吸い込んだ。悪くはなかった。芳しい香りの中にもある種の野性味を感じさせるその匂いは、おそらく実在しないアニメの少女の体臭などとは似ても似つかなかっただろうが、僕の想像する秋山優花里の匂いには似ていた。
 この成功が良くなかったのかもしれない。次に僕は、タマトイズが販売している「女子校生の匂い」のスプレーを手に取った。8x4よりも生身の女の子らしい香り――と男性が愚かしくも惑わされる程度の――を再現したこのアダルト極まりない代物を使えば、よりリアルなミリオタ美少女の体臭を再現できると考えたのである。
 そして僕は、コットン製の小さなポーチに「女子校生の匂い」を6回ほどシュッシュした。そして充分にそれが染みたのを確認し、あたかもワインをテイスティングするソムリエの様に鼻を近づけ――そして、僕は自分が地獄の釜の蓋を開けてしまった事を知った。
 たとえようもない悪臭が襲ってきたのだ。
 そこには確かにちょっとした化粧品の粉っぽい香り、女の子の若い肌に光る汗の匂い(と想像力を働かせる事が出来る程度の異臭)、そしてシャンプーの仄かな残り香などが感じられた。しかしそれと同じくらい、いやそれ以上の強度で経年劣化甚だしいコットンの異臭がしたのである。長年に亘って育まれてきた黴、縫い目に堆積した埃、それにもしかしたら、倉庫で保管されていた時にこのポーチの真上でネズミが息絶えていたかもしれない。そうした匂いがごちゃ混ぜになっていればまだ救いもあったろうが、それらは全て個別にはっきりと認識できた。ベビーパウダーと女性器と掃除用具入れのロッカーの臭いを一気に嗅がされているようなものだった。
 何故この香りが8x4と別の装備品を使った時には生まれ得なかったのだろう? もしかしたら、「女子校生の匂い」の成分が良くなかったのかもしれない――などと考えたのは随分後になってからの事で、あまりの異臭に自分のパンツを汚すかと思う程に狼狽した僕は、震える声で仮の同居人に「助けて!」と叫んだのだった。
 仮の同居人はある程度は鷹揚な人物だから、その時も「そんな酷い匂いである訳が無い」と笑いつつ、僕が作り出した最悪の物体を手に取り、すんと鼻を鳴らして嗅ぎ、そして僕を罵倒した。「どうして我が家に化学兵器があるのか?」彼女は詰問した。
 そして、僕の憐れな実験台となったコットン製ポーチはベランダにある。これを書いている時点でもそこにある。僕がアニメの登場人物の体臭を再現しようなどとしたばかりに、物干し竿に吊られて。
 ところで、ウィキペディアで調べたところによると、臭気というものは他の感覚とは異なり、脳の情動を司る部分に強く作用するらしい。詳しいことはよく分からないが、感情や記憶、本能に密接な関係を持つ部位だという事だ。とすると、女子校生の爽やかな中にもある種の艶めかしさを秘めた香りと、好事家ならば軍事を連想せずには居られない中田商店の匂いを融合させた僕は、どうやら女性的なイメージと男性的なイメージを同時に想起させるフレグランスを作り上げてしまったらしい。確かにそれは不快な匂いだろう。相反する二つのイメージと結びつく香りが一緒くたになってるんだから。脳だって処理を拒否するに決まっている。
 実験は失敗したのだ。
 そして、僕は脳内にあった「WD-40と『女子校生の匂い』で女子自動車部員の体臭再現」など、今となっては生物兵器のレシピとしかなり得ないアイディアの数々を、そのリストから消し去る事にした。とはいえ、ここにアイディアの一端を書き記したのだから、どこかの物好きな人間が真似をしようとするかもしれない。まぁ、構わないだろう。僕と僕の仮の同居人以外にも、あと一人くらいあの悪臭を嗅いで悶絶してもいいのではなかろうか。

プロフィール

HN:
Janek Chenowski
性別:
非公開

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