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Janek Chenowski's Provisional Blog

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自由と平等と民主主義が錆を防いでくれる

 愛用しているレザーマンに錆が浮いた。
 一般にステンレスは錆びないと思われているが、実際のところは油断するとすぐに錆びる。一般に言われている耐蝕性については「錆び難い」というのが正確なところか。ステンレスにもいくつか種類があって、レザーマンに使用されているものは炭素含有量が若干多めらしい。炭素は酸素を非常に呼び込みやすく、これが酸化、つまり錆の原因となりやすい。その炭素も、必要によって含まれてるのだから、文句は言えない。
 錆が浮いたら落とせば良いだけの話なのだけど、レザーマンの場合はその作業がちょっと厄介なのだ。普通のナイフと違い、マルチツールと呼ばれているこの種の刃物は可動部が300,000,000か所ほど存在している上、ナイフやドライバーを収納する為の空間は非常に狭く、指を突っ込んで磨き上げるといった事が不可能なのである。おまけに、こうした箇所にメンテナンスオイル等が溜まると埃やゴミを吸着し、それが水分を呼び寄せて錆を発生させる原因にもなる。錆が発生したら、おそらく取り除く事は不可能だろう――完全分解すれば話は別だが、メーカーはもしユーザーが分解しようものなら、その後の保証を一切無効にすると言っている。爪楊枝や綿棒で気長に磨くしかない。
 ピカールとWD40や、その他魔法の道具を駆使してレザーマンから錆を除去した後、僕はこのクソくだらない作業と完全におさらばしようと心を決めた。そして刃物業界に於いて最高の性能を持つと評判の「タフクロス」と購入したのだった。
 「タフクロス」というのはある種の防錆潤滑剤を染み込ませた布の事で、水分を除去し、浸透力に優れ、ゴミや埃を寄せ付けず、極寒の環境下でも機能し、そしてなにより偉大なるアメリカ合衆国で作られた製品であると、広告には書いてある。これを取り扱うショップでは必ずと言っていいほど「その性能は米海軍特殊部隊によって使用されたことからも折紙つきである」と併記されてるけれど、「正式採用されました」と書いていない所が面白い。PXでは販売されているようだが、米軍ではあくまで私物として購入するようだ。
 某所に注文してから数日後、僕の手元に届いたのは、ジップ付きのビニール袋に入った青い布きれだった。開けてみると、物凄く芳しいのだけど、明らかに人体に有害な匂いが立ち上ってきた。アメリカ製品にありがちな事に、袋の裏面には注意書きが大量に書いてあって、その中には案の定「可燃性」「蒸気は有害です」とあった。なるほど、こんな物を僕はナイフに塗布するわけだ。
 とりあえず、僕の持っているナイフすべてに「タフクロス」を塗りこんでみた。使用感は思ったほど悪くはなく、油のようにべたべたする訳でもないし、手に付いてもそれほど不快感はない。立ち上る揮発成分の匂いは非常に不快だが、この不快な成分はみるみるうちに蒸発して、クロスで拭った直後はじっとり濡れた感じだった金属の表面が数十分後にはさらりと乾いている。触っても指紋が残らない程だ。何がどういった機序で作用しているのかさっぱり分からないが、非常に強力な保護膜が形成されている――ような気がする。
 残念なことに、防錆剤であるという性質上、すぐにその効果を実感する事は出来ない。というか、実感できないと思う。「こいつは凄いぜ! 今まで2年半で錆が浮いてきた所が、『タフクロス』を塗ったら7年経っても錆びてないぜ!」なんて長期的なレビューを書く訳にはいかない。YouTubeには海水に漬けるテストを行った映像が投稿されているが、『タフクロス』によって処理されたナイフでも若干の錆は確認できる。あくまで「錆びに対する耐性を向上させる」効果に優れている、という事のようだ。潤滑剤としての観点から評価すると、ドライタイプとしては非常に優れた性能を持っている。クロスに染み込ませた状態では可動部に直接注油する事は非常に困難だけれど、液状のものが「タフグライド」として販売されている。もしもKYジェリーの代用に使おうなどと考えなければ、べとつかずゴミも寄せ付けず、理想的なルーブと言える。
 勿論欠点もある。僕が食事に使うオピネルにも「タフクロス」を塗布したのだが、製造元のSentry Solutionsによれば、これはアメリカ食品医薬品局の認可を受けていないという。まぁ、無認可すなわち即有害という事でもないし、公式のFAQには「『タフクロス』による保護膜に毒性はない」としている。有害である揮発成分は時間と共に消え去るし、ほとんど気にせず使えるようだが、「『タフクロス』で処理された刃物で食品を切る際は、一度拭くか洗うかしてからの方が良いでしょう」と最後に記されている。万が一の訴訟対策なのか? 裁判沙汰を恐れるあまりの注意書きが多すぎて、一番知りたい危険性に関する情報が埋もれてしまっている。「蒸気は有毒です」「ご使用後は手をよく洗って下さい」「子供の手の届かない所に保管して下さい」「保護膜に毒性はありません」 うん、それで? 僕はこれからもオピネルで鶏肉を切り分けても良いのかな? 止めておいた方が良さそうだ。よしんば毒性が無くても、『タフクロス』の味がする食事なんて想像したくない。
 総合的に言って、『タフクロス』は潤滑剤としてのみお勧めできる。ただし、様々な部品の可動部に注油したいのなら、素直にスプレータイプを買うべきだろう。クロスで拭き込むだけでは、潤滑を必要とするような部位に浸透させる事は出来ない。防錆剤としての性能は未知数だ。それを検証するには膨大な時間が必要だし、この種のケミカルについては、偽薬効果のような思い込みも大きく作用するものだから。
 「アメリカ合衆国で作られ、米軍によって愛用される製品で磨き上げる」という行為に価値を見出せるのであれば、『タフクロス』はひとつの選択肢かもしれない。だがもしも貴方がアメリカのヘゲモニーに辟易する人間だったら、『バリストール』で代用する事を勧める。
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