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Janek Chenowski's Provisional Blog

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映画館が遊園地になった

 僕は天邪鬼ではないが、他人と同じ事をやっていても面白くないと思うのは確からしい。
 そういうわけで、この齢になっても結婚しようとは一切考えないし、子供が欲しいとも思わず、流行りの音楽は聴かず、世間が「コレ良いよ!」と声高に喧伝するものとはかなりの割合で無縁に生きている。そう、野球も観ない。繰り返しになるけれど、天邪鬼ではない。ただオタッキーなだけだ。
 そんなわけで、先日数年ぶりに映画館に行く機会に恵まれた時も、なんだか名作らしい『風立ちぬ』ではなくて、若干キワモノ扱いされてる風でもなくもない『パシフィック・リム』を観てきた。知名度は宮崎駿監督作品には劣るだろうが、僕の知人のうちの何人かが「映画館で観るべき作品」として非常にプッシュする位だから、さぞ良い作品だろうと思ったのである。世間の流行に鈍感なヘソ曲がりでも、知人の言う事は素直に信用してしまうあたり、僕も世捨て人にはなり切れないんだなあと自分でも笑ってしまう。
 ところで、僕はいわゆるロボット物が大変苦手である。
 唯一通しで観たのは劇場版『パトレイバー』くらいのものだが、アレは監督の関係でロボット物というよりは普通のドラマだったし、『機動戦士ガンダム』シリーズに関してはインターネット上でミームと化したネタの断片以外に知る所は無いと断言していい。もしも誰かが僕に「ロボット物だと何が好きですか!?」と尋ねてきたら、こう答える事にしている。「うん、『ドラえもん』が好きだね。ネコ型ロボットとか可愛いじゃん」 そして、彼らは失望の眼差しと共に僕に背を向ける。こいつ話分かんねぇな、という微かな嘲笑を口許に浮かべて。
 そんなロボット物オンチだから、実を言うと僕は『パシフィック・リム』にさほどの期待を抱いていなかった。ここだけの話、『パシフィック・リム』の綴りさえ分からなかった程だ。
 しかし、そんな僕の不安は映画が始まって10分で払拭されてしまった。何故ならこれは「ロボット」ではなく「機械」の映画だったからである。
 「イェーガー」と呼ばれる劇中の人型決戦兵器――いや違うな。なんて呼べば良いんだ? まあいいや。イェーガーには「機械」としての魅力がたっぷり詰まっている。よく分からないサムシング合金や人工筋肉、自己修復被膜なんてケレン味溢れるギミックなどは搭載していないようで、常に「鉄」と「油」の臭気を全身から放っている。正直な話、あまりに「機械」として生々しすぎて、サイバネティックなコクピットが不釣合いに思える程だ。
 イェーガーの格納庫などの背景美術にしても、ケーブルや配管が捻じれ走り回る、錆の浮いた鉄製構造物というのが非常にイカしている。作中で主な舞台となるのは香港なので、ここに漢字をあしらったポスターやデカール、落書き等が加わるともうほとんど『ブレードランナー』の世界だ。近未来であるにも関わらず、旧世代のテクノロジーがひしめく世界観は一見奇異に映るかもしれないが、どこか懐かしさを感じさせてくれる部分もある。おそらく意図的に古臭くしている部分もあるだろう。ある場面で登場する東京の風景など、あまりに昭和のテイストが染みついていて、往時の怪獣映画を彷彿させる効果がある――舞台が近未来であるにも関わらず。きっとどこかに「コルフ月品」の看板も掲げられているだろう。
 「ストーリー」という概念はおそらくこの映画には存在しない。怪獣が居て、でっかい機械に人間が乗って、両者が戦う。それだけの映画だ。「それだけ」を最新のVFX技術やら何やらを駆使して壮大なスケールで描いたという部分に、この映画の価値は存在していると思う。その気になれば、一見薄っぺらに見えるストーリーの中にも様々な裏事情を読み取る事は可能だろう。例えば、「富裕層や権力者は内陸部に作られた強固なシェルターに隠れて特権階級の暮らしを満喫しているんだろうな」などと想像してみたり。ニール・ブロムカンプが考えそうな事だ。
 そして――ううん、困った。もう書く事がない。
 公平に言って、感動のドラマと俳優の名演技が名作を織り成すとするならば、『パシフィック・リム』は名作ではないのだろう。正直なところ、『パシフィック・リム』にはそのどちらも充分には備わっていない。おそらく、この映画で最も演技が輝いているのはイェーガーそのものだろう。或いはブルドッグか。
 思うに、『パシフィック・リム』はジェットコースターのような物だと思う。楽しいし、エキサイティングだが、その理由はと訊かれても分からない。ストーリーやドラマも存在しない。ただ日常を超えた体験が、僕らの心を強く揺さぶる。『パシフィック・リム』はアトラクションなのだ。
 ジェットコースターが遊園地に行かないと乗れないように、アトラクションとしての『パシフィック・リム』は映画館でしか観られない。多くの視聴者が「これは絶対映画館で観るべき」と口を揃えて言う理由は、おそらくここに有るのだろう。そんな風に、溶かしバターを掛けたポップコーンとたっぷりのコーラを持ち、暗い映画館で童心に帰って2時間11分を過ごすという体験にもっとも彩りを添えてくれる映画として、僕は『パシフィック・リム』こそもっとも相応しいと思う。
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