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Janek Chenowski's Provisional Blog

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ホームメイド・バイオケミカル・ウィーポン

 中田商店という店がある。
 軍事マニアならば一度は聞いた事があると思うが、東京にある老舗のミリタリーショップである。その豊富な品揃え、安くはないが適切とは思える値段、そして一般人にも受け入れられるだけのカジュアルさを備えた中田商店は、おそらく日本で最も名を知られた店のうちの一つなのではないかと思う。一度その店内に入れば、ありとあらゆるスペースに積まれた軍装に付着した黴や真鍮金具の緑青の匂いを、二度と忘れる事はないだろう。
 なんでこんな話を始めたのかというと、ある時Twitterで『ガールズ&パンツァー』に登場する秋山優花里という架空の少女について熱く語っているとき、「この娘の体臭は中田商店の匂いと同じなのではないか」という閃きが僕の頭の中で爆発したのである。作中でも随一のミリタリーマニアとして知られる秋山宅には多量の「コレクション」が保存されているだろうから、必然的に彼女の身体にもその香りは染み付くのだと、僕は考えた。そして自身のつまらない興味とちょっとした性欲を満足させる為に、それを再現して実際に嗅いでみようと思い至ったのである。
 ところで、我々が「中田商店の匂い」と呼ぶものは、年代物のコットン製のポーチやバッグなどを用意すれば簡単に体験する事が出来る。例えば中国製の弾帯や、古い米軍のサスペンダーなどがあれば、秋山優花里の匂いに包まれたいと思う度に御徒町まで足を延ばさなくても済む。幸い、僕の手元には人民解放軍のチェストリグが一式あったので、それに仮の同居人がしばしば誤って「エイティーフォー」と呼ぶ制汗剤を吹き掛け、多少の女の子フレグランスを足してから鼻から胸いっぱいの空気を吸い込んだ。悪くはなかった。芳しい香りの中にもある種の野性味を感じさせるその匂いは、おそらく実在しないアニメの少女の体臭などとは似ても似つかなかっただろうが、僕の想像する秋山優花里の匂いには似ていた。
 この成功が良くなかったのかもしれない。次に僕は、タマトイズが販売している「女子校生の匂い」のスプレーを手に取った。8x4よりも生身の女の子らしい香り――と男性が愚かしくも惑わされる程度の――を再現したこのアダルト極まりない代物を使えば、よりリアルなミリオタ美少女の体臭を再現できると考えたのである。
 そして僕は、コットン製の小さなポーチに「女子校生の匂い」を6回ほどシュッシュした。そして充分にそれが染みたのを確認し、あたかもワインをテイスティングするソムリエの様に鼻を近づけ――そして、僕は自分が地獄の釜の蓋を開けてしまった事を知った。
 たとえようもない悪臭が襲ってきたのだ。
 そこには確かにちょっとした化粧品の粉っぽい香り、女の子の若い肌に光る汗の匂い(と想像力を働かせる事が出来る程度の異臭)、そしてシャンプーの仄かな残り香などが感じられた。しかしそれと同じくらい、いやそれ以上の強度で経年劣化甚だしいコットンの異臭がしたのである。長年に亘って育まれてきた黴、縫い目に堆積した埃、それにもしかしたら、倉庫で保管されていた時にこのポーチの真上でネズミが息絶えていたかもしれない。そうした匂いがごちゃ混ぜになっていればまだ救いもあったろうが、それらは全て個別にはっきりと認識できた。ベビーパウダーと女性器と掃除用具入れのロッカーの臭いを一気に嗅がされているようなものだった。
 何故この香りが8x4と別の装備品を使った時には生まれ得なかったのだろう? もしかしたら、「女子校生の匂い」の成分が良くなかったのかもしれない――などと考えたのは随分後になってからの事で、あまりの異臭に自分のパンツを汚すかと思う程に狼狽した僕は、震える声で仮の同居人に「助けて!」と叫んだのだった。
 仮の同居人はある程度は鷹揚な人物だから、その時も「そんな酷い匂いである訳が無い」と笑いつつ、僕が作り出した最悪の物体を手に取り、すんと鼻を鳴らして嗅ぎ、そして僕を罵倒した。「どうして我が家に化学兵器があるのか?」彼女は詰問した。
 そして、僕の憐れな実験台となったコットン製ポーチはベランダにある。これを書いている時点でもそこにある。僕がアニメの登場人物の体臭を再現しようなどとしたばかりに、物干し竿に吊られて。
 ところで、ウィキペディアで調べたところによると、臭気というものは他の感覚とは異なり、脳の情動を司る部分に強く作用するらしい。詳しいことはよく分からないが、感情や記憶、本能に密接な関係を持つ部位だという事だ。とすると、女子校生の爽やかな中にもある種の艶めかしさを秘めた香りと、好事家ならば軍事を連想せずには居られない中田商店の匂いを融合させた僕は、どうやら女性的なイメージと男性的なイメージを同時に想起させるフレグランスを作り上げてしまったらしい。確かにそれは不快な匂いだろう。相反する二つのイメージと結びつく香りが一緒くたになってるんだから。脳だって処理を拒否するに決まっている。
 実験は失敗したのだ。
 そして、僕は脳内にあった「WD-40と『女子校生の匂い』で女子自動車部員の体臭再現」など、今となっては生物兵器のレシピとしかなり得ないアイディアの数々を、そのリストから消し去る事にした。とはいえ、ここにアイディアの一端を書き記したのだから、どこかの物好きな人間が真似をしようとするかもしれない。まぁ、構わないだろう。僕と僕の仮の同居人以外にも、あと一人くらいあの悪臭を嗅いで悶絶してもいいのではなかろうか。
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